
その女性上司は、聞いた話では高級住宅街に居を構えており、それを裏付けるように持ち物も高級品が目につきました。
社長とはご主人が友人関係ということで、「だからその肩書きなんだ」と私は穿った見方をしていた時期もあります。
彼女は私が同僚たちに不妊を応援されていることを知り、仕事帰りに私を飲みに誘いました。
「私はね、この年まで生きてきてやりたいこと、欲しい物は大概手に入れたつもりできたし、そのための努力も人一倍してきた自負があるの。
でもどんなにがんばっても子どもだけは出来なかった。
人生で、努力だけじゃどうにも出来ないことってあるんだなって、初めてで唯一の挫折というか打ちのめされたのがそれだった」
自慢話かと思っていた私は驚きました。
それから上司は、自分が老舗のお店の長男の嫁であったこと、ご主人の実家に入り後継ぎが出来なくて責められたこと、一度は仕事を辞めて専業主婦になり子作りに専念したこと、しかし結果が出なくて追い詰められて、つてを辿って今の会社に入ったことを話してくれました。
「だから○○さん(私のこと)の話を聞いた時、ああ、似てるなって思って。
私がちょうど○○さんと同じくらいの時に悩んでいたことと、全く同じことで苦しんでるんだなって思って」
不妊治療をしたことがあるという話は身近な知人からも聞いていたし、インターネットで検索してそのような体験談を何本も読んだりしていました。
しかしそのどれもが、結果的には子どもが授かった、やはり子どもはかわいい、頑張った甲斐があった、という結末でした。
けれども目の前の上司は、私が最も気になっていた、「頑張っても駄目だった人たちはどうしているのだろう」という疑問の生き証人でした。
「色々検査もしたけれども私には異常が確認できなくて」
「私もしました」思わず私は口を挟みました。「卵管造影までしてきたんですけど、『原因はわからないけど不妊症だ』って医者に言われて」
「私もした」上司は顔をあげて言いました。「痛いのよね、あれ」
その瞬間、私は上司の前だというのに、周りには無関係の客がいる酒場だというのに、涙があふれて来るのを止められませんでした。
インターネットや書籍の体験談でも、例の看護師の話でも、「人によっては痛い」というだけで実際に痛いと感じたという感想はなかなかありません。
私だけが異常なのか、あれくらいの痛みで泣いていた私は馬鹿なのか、そう思っていたところに初めて共感できる人が現れたのです。
「痛かったです」そう言って私は泣きました。
「主人も検査に連れて行きました。でもうちの場合は私も主人も原因が無いって言われて手詰まりで…」
「ご主人、検査受けてくれたの?」上司は私の話を遮って尋ねてきました。
上司いわく、上司のご主人は最後までご自分の検査を拒否されたそうです。
「男のプライドっていうの? それが邪魔したみたいで。もうそうなると治療も何も出来ないのよね。うちには兄弟がいたから後継ぎは義弟妹が産んでくれたし、その頃には私も閉経が来てしまって結果的に駄目だったの」
そう言ってから上司は、「いいご主人じゃない! 大事にしなきゃ駄目よ」と励ましてくれました。
もうこうなると止まりません。
「いい人なんです。大好きなんです。だからあの人の子どもがほしいんです。でもあんまり欲しがり過ぎたら捨てられるかもと思うと怖くて。けどおばあちゃんも会うたびに小さくなってくし、何にも恩返ししないうちに死んじゃうかもしれないと思うと急がなきゃって思うけど、急いでもやっぱり出来ないし。みんな『ヤればデキる』とか簡単に言うけど、やっても出来ないことの方が世の中多いし、そんなこと言ってるのなんて、やってないし出来てない人か、たいしてやってないのに出来ちゃった人じゃないのとか思って。でもみんなに悪意があるわけじゃないっていうのはわかるんです。けどやっぱり耐えられないんです」
飲み屋のお絞りを涙と鼻水でぐしょぐしょにしながら大号泣していました。
「何泣いてるの。女子高生でもないのに」と笑いながら慰めてくれた上司も一緒に泣いていました。
「○○さんはまだ若いんだから、諦めないで。赤ちゃん出来たら教えてね」と上司は言い、さらにボトルワインを開けてくれました。
美味しかったおつまみも、高いワインもその前に飲んだビールもカクテルも、その後駅のトイレで全て吐き出してしまったことは、今でも上司には内緒です。
おそらくご主人が非協力的だった分、私よりも辛い経験をされているはずなのに、それでも「諦めないで」と他人を励ませる上司の器の大きさに感服しました。
さらに上司は「それに子どもいる人って、子どもが独立した後、二人きりの生活が困るとか言うじゃない? 子は親の鎹(かすがい)とか言うけど、それって子どもに甘えて夫婦の関係を手抜きしていたってことでしょ? そんな人たちに比べれば私たちの方がずっと有意義な夫婦生活を送っているわよ」
と冗談めかして言っていました。
将来子どもが出来なくても、この人みたいに誰かを元気に出来るなら今の辛さも無駄にならないかもしれない、と思わせてくれる一言でした。
しかし同時に、褒められた夫のことを思うと、やはり子どもがほしいという思いが捨てきれていないことにも気付きました。
「泣いちゃだめよ」と言って帰って行った上司の背中を見ながら、様々なことが頭を巡ります。
もし私に子供が出来たら上司は喜んでくれるだろうか、それとも以前の私みたいに悔しさに「おめでとう」ですらすぐに出てこないだろうか。
そこまで考えて、誰か云々ではなく私がほしいのだ、という結論に行きつきました。
そしてただやみくもに頑張るのではなく、もう一度専門家に頼ろうと決心しました。
それまではほとんど自分たちだけで出来ることを、インターネットなどから拾ってきた知識の中で行っていましたが、それで出来ないのだからそれは意味が無かったということです。
こうして私の本当の意味での妊娠活動が始まりました。
私が念願の赤ちゃんを授かった方法はこちら

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